STORY 01
Women, be ambitious!

これは、シンデレラストーリーなんかじゃない。

外国語大学で中国語を学んでいたという高田千絵。
同級生が商社や航空業界に就職していく中、
ひとりパンの世界に飛び込んだ。
最終面接には、自分なりに試作したパンについての
自由研究を「勝手に」提出した。
「新入社員の高田だよね?商品開発やりたいんだって?」
「はい!やりたいです!」
それが、社長との最初の会話だった。
そんな彼女は、ここでなにを感じ、つかみ、
ひとりの人間として女性として成長したのか。
5年間の軌跡をたどる物語。

「むちゃぶり」からのスタート。

チャンスはいきなりやってきた。入社2年目に熱田店の製造リーダーを兼任しながら、某コンビニとのコラボ商品の開発担当に任命されたのだ。商品の原案、試作、原価管理、ネーミング、パッケージデザイン、キャッチコピー、プレゼンなどすべてを1人で任された。「むちゃぶりだと思いました」と高田は笑う。入社5カ月で、熱田店オリジナル商品の開発は経験していたが、圧倒的に規模が違う。その上、デザインの知識などゼロに等しい。「自分がいい商品を開発しなければ、何千万円という取引がなくなるかもしれない。それはもう、ものすごい責任を感じました」。希望が叶った嬉しさよりも、プレッシャーが先に立った。

9回裏のクリーンヒット。

「ダメ出しが続いたときは、へこみました」。一番のジレンマは、自分がつくりたい商品と、社長や取引先の求めるものがなかなか一致しなかったこと。「斬新なものを、と力み過ぎていたのかもしれません」。社長からは、「いきなりオリジナルをつくれるわけがない。まずは世の中でなにが流行っているのか勉強しなさい」と助言をもらった。そこで、パンメーカーの商品ラインナップを研究し、カフェなどでお客さまの好みを観察しながら、アイデアを練った。「でも、ただの真似ではなく、女性ならではの発想を大切にしていました。それが、自分に求められていることだと感じていたので」。2カ月ほどたったある日、社長から連絡が入る。「またボツかな…」。しかし電話から聞こえてきたのは、予想外の言葉だった。「高田よくやった!久々のヒットだ。ありがとう」。期間限定でリリースした「クロワッサンクイニードーナツ」が大好評で、「定番商品にしたい」と取引先から要望があったという。「嬉しくて思わず、泣いちゃいました。わたし、すごい仕事をしてるんだなって」。その後も約1年、彼女は夢だったオリジナル商品を次々と世の中に送り出していった。

摸索し続けた存在意義。

「なんのために呼ばれたんだ!もう、帰っていい」。マネージャーからの電話が切れた。入社3年目、商品開発を経て熱田店に戻った頃から、新店立ち上げの応援に頻繁に呼ばれるようになった。今回は特にマネージャーが出張している3週間、その代役として新店運営を軌道にのせる重要な役割。しかし、高田には遠慮があった。この店には、もともとのリーダーがいたのだ。「初日は彼のやり方を尊重して任せたんです。それがうまく噛み合わず、売上目標をはずしてしまって。自分が来た意味を考えろと叱られました」。このままではいけない。夜遅くまでリーダーと腹を割って話し合った。「応援で来た」という気持ちは捨てた。目標を達成するまでは絶対に帰れない。自分になにができるか考え、動き続けた。「オープン直後は忙しくて、パートさんのメンタルも弱りがちです。元気がない人に『どうしたの?』と声をかけると、女性どうしだからしてくれる話もある。そうか。まずは、そういうことをしていけばいいんだと感じたんです」と語る。数店舗の立ち上げに参加した彼女とっても密度の濃い経験だった。しだいに売上も安定し、マネージャーが戻るころには、新しい店はすっかり地域に溶け込んでいた。

育くむという視点。

そして、5年目のいま、高田は表参道店の店長を任されている。「一番のやりがいは後輩を育てること」という彼女の横には新入社員の後藤がいる。高田の意向で、初日から新人としては異例の「釜」を任された。製菓学校で学んだ知識はあるものの、現場ではまったく通用しなかった。焼き上げ温度を覚えるだけでメモ帳4ページがぎっしり埋まる。「やっていけるかな…と不安でいっぱいでした」。それでも必死に仕事を覚え、やっと慣れてきた入社2カ月目のこと。テレビ放映と連休に、慣れない新商品の製造が重なり、現場は大忙し。後藤は釜をこなすだけで精いっぱいで、他の仕事がどんどん後回しになっていった。見かねた高田が「大丈夫?」と声をかけた瞬間、緊張の糸が切れて大号泣してしまったのだ。「周りに迷惑かけたくないと全部自分で抱え込んでしまった。『先輩に頼るのも仕事のひとつだよ』と言われて、すっと楽になれたんです」。実は、それは高田自身の経験から出た言葉だった。「わたしも責任感が強すぎて、先輩に甘えるのが苦手でした。負けず嫌いで、すぐ顔に出る。まるで、昔の自分に教えているみたい」と細める目が優しい。

挙げ続ける手。

「人間としても、女性としても尊敬しています。高田さんの下にいれば、絶対成長できると思う」と後藤。仕事が終われば、姉妹のように仲がいい。プライベートの悩み相談も。「つい話に熱が入って、ふたりでよくカフェで涙ぐんでます」と高田も笑う。そんな彼女にこれからの目標を聞いてみた。「根っこの部分には、また商品開発がしたいという強い気持ちがあります。そのためにも、店長として経験を積んで視野を広げたい。安心して任せられる人材を育てて、次のステップに進みたいと思っています。もちろん結婚しても、ずっと続けていくつもりです」と目を輝かせる。若干入社5年で、商品開発を経験し、基幹店の店長に。会社が女性の力に期待しているという、追い風の環境もある。でも、これは幸運をつかんだ単なるシンデレラストーリーではない。入社して以来、高田は挙げた手をずっと下ろさなかったのだと思う。どんなことがあっても。だからこそ、彼女は、いまここにいる。

A STORY PERSON

高田千絵(2012年入社)

HEART BREAD ANTIQUE
表参道店

店長 28歳