STORY 02
Create something new.

おいしく、おもしろく。世の中を飽きさせるな。

パン屋に入って、「わぁ」と驚いたことが
あるだろうか?
見ているだけでわくわくする。
思わず手にとりたくなる。
そんなパンがずらりと並ぶアンティークの中でも、
累計販売数1500万個以上を誇る
「マジカルチョコリング」や、
あんこをたっぷり練り込んだ
「太っちょ王様のあん食パン」など
看板商品の開発に携わってきたのが、城所 聡だ。
ヒットはどうやって生まれるのか。
そこに込められる思いとは?
商品開発という仕事そのものが、
すでにひとつの物語だ。

インパクトとシズル。

「たとえばブラウニー。きれいな四角形より、バキバキ割っちゃうほうがアンティークらしいでしょ」と笑う。城所はいま、季節限定マジカルチョコリングなど主力商品の開発を任されている。その「割れチョコブラウニー」をトッピングしたチョコリングもバレンタインのヒット商品になった。ブラウニーとココアパウダーで、これでもかの「チョコ感」を出した、真っ黒な見た目もヒットの秘訣だという。「思わず『わぁ』と声が出るようなインパクトや、チーズがどろりと流れ出るようなシズルをとても大切にしています」。おいしさを追求するのはあたりまえ。どうしたらお客さまにわくわくしてもらえるか、おもしろがって手にとってもらえるか。「写真に撮ってSNSに投稿したくなる、友達に話したくなる。そんな『売り方』を生み出すのも、商品開発の醍醐味です」。

濃密な1週間。

なにが旬で、流行っているのか。社長とは日頃からよく話をする。「こういうのできないかな?」と突然メールや写真が送られてくることもしばしば。その漠然としたイメージを、売れる商品に具現化していくのが、城所の役割だ。「ただし言われたものをそのままつくるのではなく、自分の視点で+αを加え、当初の想像を超えるものをざしています」。そのためにはアイデアのストックが欠かせない。食品関連の雑誌、業界紙、料理本を読みあさり、気になるベーカリーやパティスリーには足を運ぶ。商品のコンセプトが決まると、試作開始。味、季節感、見た目のインパクトはもちろん、材料コストや各店舗での製造のしやすさなども考え、少なくとも3、4種類をつくる。社長や商品部の社員と試食を重ね、意見を聞きながら、最終形に落とし込んでいく。驚くべきことに、ここまでで約1週間。「スピードはなによりも大事。世の中はめまぐるしい速さで変わっていくから。レシピが固まった時点で、僕はもう来月のことを考えていますね」。

刺激を発信せよ。

「これはいける」という瞬間は、突然、降りてくる。以前、クロワッサン生地を使ったシュークリームを開発したときも、生地がうまく膨らまない、食感がいまいちだと、何度も試作に失敗した。そして、次のもう1回目に、その瞬間がやってきた。「単なる『合格』ではなく、期待以上のものができたと。翌日まで待てず、その足で社長の自宅に持っていったのを覚えています」。「これうまいね!」とすぐに弾んだ声で電話がかかってきたという。逆に連絡がないのはボツ。ダメと言われたらスパッと諦める。「アンティークを一番理解しているのは社長ですから…でもね」と付け加える。「どうしても、これを世に出したいと思ったら、粘るときもあります。いまも新しい食パンを考えていて、ボツになりかけても、もう一度、粉の配合を変えて社長にプレゼンしたり。職人のささやかな抵抗です」と笑う。パンの世界にもトレンドがある。日頃からアンテナを張り、情報に敏感でいれば、アイデアの種はたくさん転がっている。その種をどう育てるか。自らアイデアを練り、刺激を発信していかなければ、予想を裏切る商品などつくれない。

受け継いでいくDNA。

「なにがアンティークらしいか」を、ずっと追求し続けてきた。「商品はもちろん、店のインテリアやスタッフのサービス、パッケージやキャッチフレーズ、ポスターなどが一体となって独自の世界感を生み出すことができる。それを全部、おなじ『温度』を共有する社内のメンバーで手がけられるのも、僕たちの強みです」と語る。ならば彼にとって商品開発の魅力とは何だろう?「これまで世の中になかったものを生み出し、それをお客さまが喜んでくれる。美味しいものは、人々を幸せにできる。売上の数字は、すなわち笑顔の数だと思うんです」。もちろん、失敗もある。「そういうときは記憶から抹消します。プラスのことしか考えない」と笑う。今後は、若手や女性の感性にも大いに期待しているという。脈々と流れるアンティークのDNAを、若い人々に受け継いでいく。

真夜中の厨房から。

商品開発には精神的なタフさも必要?という問いに、「プレッシャーは感じない性格なんですよ」とさらりと答える。しかし、その笑顔には努力の裏付けがあることも知っている。管理職になったいまでも、朝は誰よりも早く、夜は誰よりも遅くまで店にいる。若手の職人に混じり講習会やコンテストにも積極的に参加している。知識や技術を磨きたいという意欲は衰えることがない。通勤電車でも自宅でも、気がつけばパンのことを考えている。「商品開発は派手に見えて、地味な部分も多い仕事。試作のときだけでなく、日々のことすべてが、結果につながっているんです」。もともとはイタリアンの料理人だった。海外で修行後、パンの世界に入り、縁あって社長に出会った。まだアンティークは1店舗だけ、テレビ放映がきっかけで人気が急上昇し、「24時間眠らないパン屋」と言われていた頃。「夜勤で出てくると社長がにこにこ近づいてきて『今日はなにつくるの?』って。ふたりであれこれ試作するのが楽しかったな」。いまでは会社も大きくなり、立派なテストキッチンも完成した。でも、思いはあの真夜中の厨房とおなじ。「おいしく、おもしろく。世の中を飽きさせない」。城所の両手から、今日も新しいなにかが生まれている。

A STORY PERSON

城所 聡(2008年入社)

HEART BREAD ANTIQUE

商品部 部長 43歳