
STORY 03
What’s our hospitality?
雨の日には、傘をさして車まで迎えにきてくれる。
常連のお客さまが何も言わなくても、
「今日はチーズケーキおいくつにしましょうか?」
と声がかかる。
商品について聞けば、丁寧に、
でもマニュアル通りではない説明が返ってくる。
なぜケーキを売る店が、
それほどまでに接客を大切にするのだろう。
2店舗の店長を務める石垣みな美に、
そう尋ねてみた。
彼女の答えすべてが、ピネードのホスピタリティを
かたちづくる「物語」だった。

心まで温めるもの。
クリスマスの時期、ピネードには長い行列ができる。開け放したドアから冷気が流れ込む上に、ケーキが傷まないように冷房をつけるので、店の外も中も極寒。「そんなときマネージャーが使い捨てカイロを大量に買ってきて、並んでいるお客さまに配り始めたんです。まだ新入社員だったわたしは、その機転と心遣いに感動しました」。石垣がそのマネージャーに初めて会ったのは、入社面接のとき。温かい笑顔でまっすぐ目を見て話してくれた姿が印象的だった。こんな人と一緒に働いてみたいと思った。「入社してみると、マネージャーはもちろん周りの先輩たちも素敵な人ばかり。きめ細かい気配りや女性らしい立ち居振る舞いに憧れました。自分も早く近づきたい。そう思って今日までやってきたんです」と、懐かしそうに当時を振り返る。

接客とは観察すること。

「現在は名古屋市内2店舗の店長を兼任している。地域によってお客さまもさまざま。各店1日100組近くが訪れるが、常連の方の顔と名前はほぼ把握している。「実は記憶するのは苦手。その日にいらっしゃったお客さまとの会話をノートに書いて覚えるようにしていました」。接客の基本は観察すること。視線や表情から探しているものを予測する、持ち物や服を会話のきっかけにする。会話を大切にするのは、お客さまが「なにを求めているか」を知るため。目的のものを早く買いたい人もいれば、商品のことを詳しく聞いたり、お勧めを教えてほしい人もいる。「言われなくても、こちらから相手にぴったりの商品やサービスを提供できるのが理想。年齢やタイプなどによって、お話の仕方も変えています」と語る。嬉しいのは、お客さまから名前を覚えてもらえること。「石垣さんの顔みると元気になるから」と、散歩の途中で立ち寄ってくれる。そんなちょっとしたことが、日々、彼女の心を弾ませる。
小さな箱に思いも詰めて。
「ただ売る、ただ買ってもらうには絶対ならないように、自分なりにできることをいつも探す」というのが、彼女のポリシー。たとえば、「孫が好きなアニメのプリンセスのケーキをつくってほしい」というお客さまとは、写真を見ながらドレスの模様や花のデコレーションなど細かいところまで打合せをしてデザインを決めた。ケーキをオーダーしてくださったお客さまには、一人ひとりに必ずお礼の気持ちをこめたメッセージカードを添える。箱の中のケーキが動かないように入れる仕切りの紙をハート型に折る茶目っけも。「ほんとうにちょっとしたこと。見た人が思わず笑顔になるシーンを思い浮かべて工夫しています」。以前も疲れた顔をして訪れた常連のお客さまに、元気になってほしくて、箱の底にメッセージとスマイルマークを書いて渡した。「次に来店されたとき、『びっくりしたけど、嬉しかったよ。ありがとう』って言ってもらえて。こっちが元気をもらいました」。小さな箱には、彼女のそんな思いもぎゅっと詰まっている。

深く、難しい。だからおもしろい。

ひとりの人間として魅力がなければ、いい接客はできない。ピネードの元オーナーから、いつもそう言われていた。いろいろなところに出かけ、さまざまな人と出会い、美味しいものを食べなさい。視野を広げ、感性を磨くために、と。「いまでもその言葉を大切にしています。先日は取引のある石川県のお茶工場にプライベートで見学へ。なにげなく遊びに行ったつもりが、先方の社長からいろいろなお話を聞くことができて、刺激になりました」と語る。レストランやカフェ、ホテルにもよく出向き、接客のヒントを探す。中でも絶賛するのは、品川にあるフレンチレストラン。「接客の距離感が絶妙で、ほどよい親しみが感じられます。好みをさりげなく聞きだし、こちらがぐっとくる提案をしてくれる。食やワインの知識も豊富で、話しているとお料理がもっとおいしくなるんです」。人をもてなす仕事は奥が深く難しい。だからこそおもしろいと、最近、感じるようになった。「満足してもらうのはあたりまえ。わたしたちがめざすのは、いかに感動してもらえるかなんです」。その表情に石垣の強い意志を感じる。
甘い香りの記憶。
ケーキを売る店が、なぜそこまでホスピタリティにこだわるのだろう?「ハッピーの循環を生み出したいんです」。それが彼女の答えだ。「いい接客は、お客さまをしあわせな気持ちにできる。その笑顔を見て、わたしたちも『またがんばろう』と思えるし、その意欲が質の高い商品やサービスを提供できる会社をつくる。そして、それがまたお客さまへのホスピタリティにつながる。それって、みんながハッピーになれますよね」。店に立つ石垣は、お客さまにもスタッフにもいつも笑顔だ。彼女の周りがぱっと明るく見える。「みんなが楽しみながら働ける会社をつくりたい。そのためにも社員やパートさんと会社のパイプ役になるのが、わたしの目標です」。高校を卒業してアロマの仕事を7年。癒すことはできるけれど、もっと人をしあわせにできる仕事はないだろうか。そんなふうに考えるようになって、真っ先に浮かんだのがケーキだった。誕生日や、記念日などいつもハッピーなシーンにあるもの。「実家の近所にケーキ屋さんがあって、懐かしい甘い香りをふと思い出したんです。ここだ!とインスピレーションで決めました」。そう笑う彼女はいま、その「近所のケーキ屋さん」の店長として、人々にしあわせを届け続けている。


石垣 みな美(2010年入社)
ピネード 社台店、植田店
店長 32歳